【 事例発掘 】「仕組み」ではなく「顧客体験」をとことん追求した”ホンモノのO2Oマーケティング事例”を自分なりにあつめてみた。
【記事要約】
もはや定番のマーケティング施策となった「O2O」。MRCでも調査や記事を複数公開しています。ただ、クーポンをもらっても「今じゃないんだよなぁ」と思うことも度々あります。もっといい方法はないんだろうか?ということで、今回はワタシ自身が「これは!」と思った事例を紹介しながら、顧客体験視点の「O2O」について調査を踏まえて自分なりに回答を出してみました。
目次:
以前、MRCでO2Oに関する2つの記事を公開しました。
アプリで加速する”O2Oマーケティング”チラシアプリが変えた既婚女性の買い物事情とは?
【 考察 】ポケモンGOに垣間見た「O2Oマーケティング」の真髄とは?
一応説明しておきますと、「O2O(オーツーオー)」とは、「Online to Offline(オンライン・ツー・オフライン)」の略。お客様を、オンライン(インターネット)から、オフライン(リアル店舗)に誘導したり、逆にリアル店舗や手に取った商品から、自社サイトに誘導するマーケティング戦略のことです。
スマホやアプリが普及して、ネットとリアルの境界が薄くなり、すっかりおなじみの戦略になってきました。
でもほんとうに今のやり方でいいの?ということで上の2つの記事を書かせていただきました。ざっくり説明すると、O2Oの環境は整い、ツールは普及したけど、なにか目的があって行動しているユーザーを店舗に誘導するためには、その目的を変えたくなるほど「強烈なインセンティブ」がないとダメ、ということです。
記事を書かせてもらってから、読者の方から「具体的に解決策を教えてよ」という要望をいくつかいただきました。
なるほど。確かに「強烈なインセンティブ」という「成功の方向性」は紹介したのですが、「解決策」までは紹介できていませんでした。なので、今回は自分なりに「これ秀逸!」と感じた「O2O事例」をいくつか紹介したいと思います。
そして、O2Oを成功させるための「強烈なインセンティブ」ってなんだろう? を考えてみたいと思います。
プレ接客するファッションアプリ「スタイラー」
引用:スタイラー株式会社
「”つながり”でファッションを楽しくする!」をコンセプトにウェブからオフラインの店舗へ O2O送客をするサイト&スマートフォンアプリ「スタイラー」。
ココの特徴は、来店に誘導する、「プレ接客」というか「予備接客」というかを、チャット形式でやること。
引用:STYLER Press Kit(以下、同様)
まず、チャット画面にほしいアイテムのデザインや予算を入力します。
すると、加盟している、渋谷・原宿・表参道を中心とした各地のファッション系ショップ150店舗以上から、いろんな商品がオススメされます。こんな感じで並びます。
並んだオススメ商品で、気になった商品があれば、じっくり見たり、
ショップ情報を見て、実際に商品を見に行ける、という流れです。
STYLER を導入している渋谷区神南のある店舗では、来店客全体の15%が STYLER 経由で来店し、そのうちの72%が商品の購入に至るケースがあったという。同社は以前、STYLER 導入店舗において、全来店客に占める STYLER 経由来店客の割合が平均15%であることを明らかにしており、コンバージョンレートについても、店舗によって大きな開きは無いだろう。
引用:「THE BRIDGE」(2016.08.02)
ファッション提案O2Oの「STYLER(スタイラー)」がトランスコスモスから資金調達、チャットコマース全盛に備えBPOなどで業務提携
でも、ECに問い合わせするんじゃダメなの? なんでリアル店舗に誘導するの? と、ワタシは思いました。実際、スタイラーさんでもECに誘導しているショップもあります。が、ファッションはまだ圧倒的にリアルが強い分野なんだとか。
ファッションの市場規模は18兆円といわれていますが、そのうちオンラインは1.4兆円とたった7%程度に過ぎません。まだまだ圧倒的にオフラインが強いのがファッション市場だといえます。
(中略)
モノを見るだけではなく店舗でスタッフさんに相談したり、コミュニケーションをとる中で購入に至るケースも多々ありますがおしゃれなお店ほど店舗に入るハードルが高く、ますます情報の非対称性が発生してしまいます。
引用:「SHOPCOUNTER」(2015.12.28)
オンラインは来店前のプレ接客!O2Oマーケティング 最前線
なるほど。確かに商品をググるんじゃなく、スタッフにオススメしてもらい、その後でやりとりすることで、「その人がほしい商品」の精度を高めてるわけですね。それなら、初めてのショップでも、「自分のほしいアイテムがあるかどうか」を悩んで、入るのをためらうようなことがなくなります。
それに、実際にやりとりされてる例を見ると、こんな感じなので、
失敗しても腹が立たない激安品や、買い慣れたブランドの商品ならECでもいいんでしょうが、「一定の価格レンジ」の商品については、やっぱり「実際に見て確かめたい」と思うもの。その場合、この仕組みは「来店動機」になるわけですね。
個人的には、位置情報&ジオフェンシングを導入して、過去にやりとりしたショップからセールなどのプッシュ情報を送るなどすれば、もっと利用率が上がりそうな感もあります。
<結論>
スタイラーさんのO2O成功への「強烈な来店インセンティブ」は、
プレ接客で、「オススメ商品から自分で選んだ」というオンリーワン感と
アプリ上でのスタッフとのやりとりによる「つながり」にあり。
お部屋「探され」サイト&アプリ「イエッティ」
ietty(イエッティ)
不動産、特に賃貸住宅の仲介は、情報のオンライン化が進んで、紙の雑誌はほぼ姿を消し、お部屋探しサイトが一般的になりました。ただ、ネットで申し込みまで完結することはほとんどないでしょう。現状、約 2,500 億円という賃貸仲介市場のオンライン化率は 0.1%と言われています。参考:ietty Press Release
なので、オンラインで物件情報を見つけ、その物件情報を持つオフラインの不動産会社へ行き、物件を内見して契約と、O2Oがデフォルトになっています。
ただ、今回紹介する「イエッティ」さんは、一般的なお部屋探しサイトではなく、お部屋「探され」サイト。自分から情報を検索して探すのではなく、チャットで希望を入れると、オススメ物件が紹介されます。
引用:「ietty」(イエッティ)
提案が届くまでのスピードは、チャットボットの記事で取り上げた「ヘヤジイ」(AIがチャットでオススメ物件をレコメンドしてくれる)のほうが早いです。
参考記事:【 新戦略 】Facebook広告のBtoBマーケティングにおける”テッパン”は、「チャットボット」×「メッセンジャー広告」
ただ、イエッティさんの場合は、人間がこちらの言葉にならない希望を想像しながら物件のオススメを続けてくれます。
要は物件紹介だけでなく、不動産屋のカウンターで行われていた接客をオンラインにしたところに価値があるんです。しかも、営業時間にわざわざ行かなくてもいいし、営業の人が台帳をめくったり、電話をかけたりしているのを待つ必要もありません。それに、不動産屋さんのカウンターに座っていると、なんとなくアウェーなカンジがして断りにくかったりしますし。
この、好きな時間と場所で、「チャットでの接客」を受けることで、自分が本当に求めている物件との「マッチング精度」が高まっていると言えそうです。
なので、イエッティさんのユーザーも増加中。
iettyには、月間6000〜7000ユーザが新しく登録していて、不動産を取り扱っていることから、ユーザの情報も細かく入っています。その数のユーザたちに対して、4〜5万の物件を提案しています。
引用:「THE BRIDGE」(2016.05.13)
0→1のフェーズは終わり。不動産仲介のネット接客プラットフォーム「ietty」が東大研究室や人材会社と連携し、拡大に備える
契約も毎月数百件、売上も数字は非公開ですが年間数億円にのぼるとか。社員30人規模のテクノロジー系企業としては、なかなかの数字です。
<結論>
イエッティさんのO2O成功への「強烈な来店インセンティブ」は、
チャットでの接客で、本当に住みたい家が見つかること。
要は、チャット接客によってその人独自の「強烈なインセンティブ」と物件の「マッチング精度」が上がること。
朝や昼休み後も並ばずコーヒーが受け取れる「ザ・ローカル」
引用: THE LOCAL
3つめの事例は、オンラインやイベントで人気のコーヒーメディア「Good Coffee」と、事前注文&決済システム「O:der(オーダー)」のコラボカフェ。サードウェーブコーヒーの元祖とも言われるサンフランシスコの「リチュアルコーヒーロースターズ」の豆まで揃う本格コーヒーが、アプリを使えば、並ばずにテイクアウトできます。
コンビニコーヒーの大ヒットで、朝と昼休みの終わりにドリップコーヒーを買ってオフィスで飲む、という人が増えましたよね。ワタシも習慣になってます。ただ、朝と昼って、レジが混むんですよね。レジの行列を見て、何度あきらめたことか。カフェも丁寧につくってくれるところほど、できるまで時間かかりますしね。
それはショップ側も経営的に難しいとこなんだとか。
「コーヒーは他業態と比べても注文から提供までのオペレーションを早く回す必要があり、特にピークタイムは短時間で多くの注文を処理しなければ機会損失につながってしまいます。また時間が経つと冷めやすいという商品特徴も事前注文の仕組みとしてはハードルが高い部分がありました」
(Showcase Gig 高嵜文菜氏)「コーヒーショップは朝の出勤前とランチ後の計3、4時間で1日の売り上げの半分を占めるほど注文が集中するので、ピークタイムの効率化は店舗の収益にダイレクトに響く部分でもあります」
(Good Coffee 竹内剛宏氏)
引用:「SHOPCOUNTER」(2016.04.08)
テクノロジー力×コンテンツ力で他にはないユニークなコーヒースタンドへ/THE LOCAL インタビュー
そのために、スマホで事前オーダー&決済できるシステムが、ショップにもお客側にもメリット大だということですね。
引用:GooglePlay「O:der(オーダー)」
ワタシ、実際にショップへ行って話を聞いてみました。やっぱり、実際の使われ方は通勤時が多いみたいです。いつも前を通る人が、数十メートルぐらい前に事前注文、ドア横のカウンターにコーヒーを置いておくので、「おはようございます」「今日もがんばってください」ぐらいの会話で、すぐコーヒーを受け取れる。この間2秒ぐらい。そんな使われ方をしているみたいです。
▲店内の壁にかかったデジタルサイネージには、注文の進行状況が表示されます。商品の準備ができると、一番上の行のように緑に。カップやスリーブもいい感じの本格コーヒーが受け取れる。(撮影:MRC)
実際に注文してみて思ったのは、店に入って(混んでたら並んで!)、カウンターで注文して、サイフをポケットから出して、小銭を数えて、おつりを受け取って、レシートをしまって、という作業がないのは、とても楽。会社に行く際に、並ぶ必要がないのであれば、「この店を選ぶ理由のひとつ」になる=来店動機になる、と思いました。
実際、アプリを使う人の割合は高いようで。
「開始から1週間で『O:derアプリでの決済が全体の15%』を占めています。他の店舗との比較で言うと、アメリカのスターバックス全店で5年ほど前から導入されているMy Starbucks Rewardsアプリのオンライン決済比率がおおよそ21%前後と言われているので、オープン早々に15%に達しているというのは『世界的に見ても高水準な数字』だと思っています」
(Showcase Gig 高嵜文菜氏)
引用:「SHOPCOUNTER」(2016.04.08)
テクノロジー力×コンテンツ力で他にはないユニークなコーヒースタンドへ/THE LOCAL インタビュー
コメントにある、アメリカのスタバの事前決済アプリは、売上を押し上げる原動力になったと言われるほどヒットしているO2Oアプリです。参考:「DIAMOND Online」(2017.01.06)
それと比べられるほど使われているというのは、今後に期待できそう。パッと考えただけでも、昼休みのランチやお弁当の注文とか、売れきれがちな雨の日の傘の取り置きとか、事前決済系のO2Oが活躍できる業種は多い気がします。
<結論>
ザ・ローカルさんのO2O成功への「強烈な来店インセンティブ」は、
混雑しがちな朝や午後イチ前でも「並ばずに本格コーヒーが受け取れる利便性」にあり。
O2Oは期待感の高いブルーオーシャン
いかがでしたでしょうか?
いずれもO2Oを導入するうえでの、「仕組み(情報の流れや効果測定など)」を整備すると同時に、「どうやったら利便性を高められるか」、「どうやったらニーズに応えらるか」という「顧客体験」にこだわり抜いている、とも言えそうです。
だから、彼らの「O2Oマーケティング」はユーザーにも受け入れ、また注目もされているんでしょう。今回はどちらかというと大手(パルコのビーコンを使ったO2O実験など)の大規模なものというより、これから伸びそうな芽を取り上げました。
O2Oは定着したといってもまだ数年の新しいマーケティング手法。実はまだまだブルーオーシャンな領域と言えるんじゃないでしょうか。
MRCでも少し前ですが関連調査をしています。当時はクーポン、ポイントという「おトク」がインセンティブとなっているというデータでした。
参照:MRC 飲食店や小売店の公式アプリと消費行動(2015.06.12)
しかし、オンラインで接触があることで、さまざまな要因が来店誘導にはなってそうです。
参照:MRC 飲食店や小売店の公式アプリと消費行動(2015.06.12)
それは、「トクするから」だけでなく、それによってイメージが良くなったり、ファンになることで興味が沸いたりという精神的な働きも生みだしているように思います。
参照:MRC 飲食店や小売店の公式アプリと消費行動(2015.06.12)
ここに、今回の事例のような「つながり」や「マッチング精度」、「利便性」といった、様々なインセンティブが加われば、O2O成功への道もより明確になってくるのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。この記事がみなさんのO2Oを考えるヒントになればと思います。顧客の求めるものをさらに知るために「調査」をしてみるのもいいと思いますよ。
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